大相撲の元横綱白鵬の宮城野親方が日本相撲協会を退職。
だからどうした、ということでスルーしようと思いましたが、このブログ開設時からいろいろ(ほぼ文句)を書いてきましたしね、思うことを書いておくべきかな、と。
個人的には白鵬はもう10年くらい前にクビになってなければおかしかった人と思うので、なぜクビじゃなくて退職なんだよ、という気しかしません。
報道によれば、
今後の活動について「相撲を世界に広げるプロジェクトを中心にやっていく。白鵬杯をベースとして世界中の多くの人にその魅力を伝える。相撲は神事でもあり精神や肉体を鍛え礼に始まり礼に終わる。その魅力は世界の差別や偏見、争いごとを解決する希望を届けられると信じている」と話し、新たなプロジェクトを立ち上げる考えを示しました。
だそうだけど、いやいやいや自分自身が「神事でもあり精神や肉体を鍛え礼に始まり礼に終わる」相撲の魅力をぶち壊してきただろ。土俵下から判定に不服で駄々こねるような奴がなにをぬかしているのか。という批判をすると「もういいじゃないか」と言われちゃうのかな。いやいや良くないよ。もうみずからの過去の行いのせいで何を言っても説得力ない、という状態に陥っていることが理解できてないようにみえる。いちど失った信頼が、たった1年間くらいの罰を受けただけで回復できるということは、それがいいか悪いかは別として、少なくとも日本ではありえない。なにしろ国民の大部分が死刑を是認しちゃってる国ですからね、「やりなおし」が認められるのは政治家くらいのものなのが日本という国。部屋閉鎖の処罰の期限が示されないのが不満だったらしいけど、1年しか辛抱できないとか、もう考えが甘すぎるとしか。もともとたいして悪いことしてないと思ってるから「なんで1年も我慢したのに許されねえんだ!」というふうになるんでしょう。
いちど信頼を失ってそれをなんとかしたいなら、5年でも10年でも後輩の照ノ富士のもとで部屋付きとして粛々と努力するしかないでしょ。あの大横綱(とされている)が後輩横綱の下という立場!そして協会では下っ端の年寄としての汚れ仕事を何年も黙ってやった!となれば国民からも「いやいやいや相撲協会も認めてやれよ」っていう声があがるでしょうが、たった1年で「なんで部屋が復活できねえんだよ!」ってなるのは結局のところ「俺は優勝45回の大横綱だ!」とかいうプライドが許さないからでしょう。それが透けて見えてしまうから1ミリも応援したいという気にはならない。
大横綱である自分がそんな扱いを受けるのが我慢できないのなら「相撲協会?やってられるか。もうやめる」という選択をすることは正解とは思うけれど、彼の「新プロジェクト」やらを、世紀の売国企業、トヨタの創業家会長がスポンサーとして支援するとかなんとか。そう聞くと「新プロジェクト」とやらもなんともいえない腐臭をただよわせてくる。世紀のブラック横綱と、消費者と国家をだましておきながら「不正?撲滅なんて無理ですよ」と言い放った売国経営者がタッグを組んで日本の国技とされている相撲をなんとかしようとなにかをやる、ときけば、なんとも不気味。そんなことするより自分の会社の不正をただすことを一生懸命やるのが先じゃないのか?
相撲を世界的なものにするということ自体は応援したいが・・・
きけば「世界相撲グランドスラム」構想というものをもって新会社を設立するらしい。具体的なことはわからないがつまり世界大会みたいなのがやりたいのかな。
売国経営者が一枚かむらしいというところは気持ち悪いけれど、その発想自体は否定するべきものではありませんね。
白鵬自身もそうだったようにみえるけど、大相撲で横綱になると自分が「天下無双」であるように勘違いする奴が多すぎ。だから大部分が問題を起こしたんでしょ。力士がたった数百人しかいない日本相撲協会のなかで最強だからといって「神様」扱い、本人もその気になっちゃうとか、アホなの?と言われても仕方がない。柔道だのもオープンでやってトップを決めているんだから、相撲もそうするべきでは? というのは私もここに何度か書いていて、白鵬がやりたいのはそういうことなのかな、ならばそれ自体は応援したい、という気はします。
白鵬が目指しているように相撲がオリンピック競技とかになって、そこに日本相撲協会の力士も参加してそれでメダルを日本相撲協会の力士が独占したりすれば相撲協会の横綱が「天下無双」を名乗ってもいいが、そうならなければ(もしくは相撲協会が逃げれば)相撲協会の権威は地に落ちる。そう考えると、白鵬はそのようにして遠回しに相撲協会にケンカ売る気なんだな、とも思える。しかし別の見方をすれば、相撲協会と共存共栄、結果として相撲をワールドワイドにしたいってことかな、ともなるか。
強けりゃあいいというものではない、という認識が広がってほしい
こないだは大の里が初土俵から13場所というスピードで横綱昇進。
横審やファンはこれを大絶賛しているけど、私は「もともといた先輩力士はどんだけ情けねえんだよ」という気持ちのほうが。忸怩たる思いで打倒大の里に燃えている力士もいるでしょうが、大の里は学生だった時点ですでに幕内上位級のチカラがあったわけだから、するとひろい世の中には、最強とされる横綱よりも強い人間なんぞはいくらでもいるであろうことは想像にかたくない。
そういう想像力があれば横綱になったからといって増長するようなことはないはずなのですが、周りがチヤホヤするからそうなってしまう。相撲協会という狭い世界のなかでやっているかぎり、横綱に「いやいや調子にのんな。世界には上には上がいくらでもいるぞ」というふうにならない。だからおかしなことする横綱が続出する。
その意味で白鵬が目指しているらしい「相撲グランドスラム」には期待したいけれど、どこまでいっても「上には上がいる」のであれば、日本の国技たる相撲の、日本相撲協会が認定する「横綱」にもとめられるべきことは、「強い」ということだけではないはずだと思うんですよね。
先日亡くなった野球のスーパースター長嶋茂雄氏は、「記録」の面では上には上がいっぱいいましたよね。本塁打も安打数も打率も、トップクラスだったけれど頂点には遠く及ばない。「史上最高」の成績ではなかったけれど、史上最高の人気を誇り、史上最高の伝説の野球選手として語り継がれる存在に。
かたや白鵬は、現役時代の「記録」は圧倒的にダントツのトップ。記録だけみればまさに史上最強だったけれど、残念ながら人気はあんまりない。擁護する人も「いろいろ物議をかもすことやったけど実績は立派で、相撲界をささえた」という言い方をする人が多い。そういう「勝てばいいんだよ勝てば」的な思想の人は白鵬を応援するんでしょう。消費者をだまして結果その安全が脅かされようが、過酷な値引き要求で下請けを泣かせようが、ちょっと業績が悪くなったらすぐに労働者を切り捨てて路頭に迷わせようが、とにかく会社が勝てばよかろうなのだ、という思想しかみえない売国企業トヨタの創業家会長が奴を支援すると表明していることからもそれがよくわかる。あれは会社として支援する気なのかね。それとも個人的に?相撲部屋の運営すらもできなかった奴に会社なんかできると思っているのだろうか。会社として支援する気ならトヨタの株主は黙っていてはいけないのでは?
それはともかく、長嶋氏についての報道や評伝なんかをみていると、学生なんかはともかく少なくともプロは、勝てばそれでいい、というもんじゃない、というのがよくわかる。
三振(つまりバッターとしては「負け」)しても「よりカッコよく見せてファンに喜んでもらおう」とした長嶋氏と、負けてふてくされてダダこねる姿を堂々とファンにみせたり、あとになって「子どもでわかるだろ!」と審判に文句つけたりした奴、比較するのも失礼な話。なんか白鵬が傍若無人になったのは稀勢の里に人気があつまって自分が悪役にされたからだ、とかいう見方もあるらしいが、いやいやいやだからどうした。北の湖も強すぎて悪役扱いされたけど立派な土俵態度をつらぬいて理事長にまでなったじゃないか。自分に人気がなかったのはその「勝てばいい」という思想を受け入れられないまともなファンが一定数いて、それに嫌われたというだけの話なのを理解したほうがいいんじゃないか。
いつも言うように彼が勝利至上主義におちたのは勝ち星のことしか言わない横審やファンや協会のせいではあるけれど、それでもそうならずに美しい相撲をつらぬいた立派な力士もいたわけですからね。そういう力士が事業をおこしてクラファンでもやるなら私もちょっと投資してみたいと思うけど、白鵬はねえ・・・。
いずれにしろ、勝てなかろうが真摯に一生懸命やる姿をみせるのがプロの使命のはず。力士を志す子どもたちにはとても見せられない、「勝てばいいんだよ勝てば」という醜悪な相撲をみせてばかりいた白鵬が「世界中に相撲の魅力をつたえる」と言われても「えぇ・・・」となってしまうのは仕方がない気がする。相撲の魅力ってのはそういうもんじゃないでしょ。奴は横綱土俵入りも勝手にアレンジしていたけれど、決められた所作を決められたようにやるのが美しいという「様式美」が相撲をはじめ武道の魅力的なところでもあるわけで、見苦しいことこのうえなかった。
私などは、毎回毎回土俵を掃き清める呼出のまさに「様式美」を体現した所作の美しさに感動してしまうんだけど、相撲の魅力ってのはああいうところに凝縮されてるんじゃないのか。だれが勝とうが強かろうがそんなことはどうでもいいんだよ。力士にもとめられることは、呼出が美しく土俵を清めるように、美しく闘うことではないのか。そう考えれば、たとえ反則でなくともエルボースマッシュやダメ押しが「美しくない」と感じるのはふつうの感覚では当然のことで、それを「みっともない」と感じる感性がなかったようにしかみえない大横綱が協会を飛び出して「相撲の魅力をつたえる」とか言い出しているのをみると、いったいなにをやる気なのか・・と不安しか感じない。
とりとめなくいろいろ書きましたが、相撲をワールドワイドに、というところは応援したいし、その結果相撲協会も「閉鎖的な運営ではつぶれる」という危機感をもって改革しようという姿勢に転じてくれることになればいいなとは思います。おかしなスポンサーに操られておかしなことにならないように祈りたい。