前の記事→ギャンブル依存症への理解を深めるべく、カジノで100億以上負けた男の著書を読んだ。~前編~
の続きです。
2010年~2011年にかけて起こったいわゆる「大王製紙事件」で
会社の金を100億円以上も横領してカジノで溶かしちゃった男の書いた本を材料に、
負けるギャンブラーの考え方を知ることで
パチンコ・パチスロでの収支を改善することに役立つのではないか、と思います。
バカラという、絶対に勝てないギャンブル
今回も大王製紙元会長・井川意高氏の著書「溶ける」から引用させてもらいながら
話をすすめていきます。
Amazon.co.jp 熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 (幻冬舎文庫)
井川氏は、マカオやシンガポールのカジノで
彼のようなハイローラー(ものすごい大金を賭ける人)が好むギャンブル、
「バカラ」にアツくなってしまい、100億円以上も溶かしてしまいました。
私はサラリーマン時代にラスベガスのカジノで1回だけ一晩遊んだことがありますが、
パチスロ好きだった私はアメリカのスロットを体験したくて手当たり次第にスロットをやっていたので、
テーブルゲームには一切近寄りませんでした。知らないものに手を出す度胸もなかったし。
だから当然バカラは未体験なので詳しいことはわかりません。
しかし書籍などで学んだだけであっても
「トータルでは絶対に負けるギャンブル」であることはわかる。
ここでは詳解しません(詳解できるほど知らない)が、
要は「バンカー」と「プレイヤー」にルールに従ってトランプのカードを配られるので、
ルールに従って計算してどちらのカードが「9」に近くなるかを
予想するゲーム・・らしい。
基本的に勝つ確率はほとんど1/2。
勝てば2倍の払い戻し、つまり100ドル賭ければ200ドルとなります。
・・・これなら期待値100%となり、トータルで負けることは理論上はないわけですが、
そう甘くない。
2倍となるのは「プレイヤー」に賭けて勝った場合であり、
「バンカー」に賭けて勝った場合はコミッション(手数料)5%を引かれます。つまり、1.95倍になる。
これはシステム上「バンカー」のほうが勝つ確率がわずかに高い(50.685%。引き分けを除いた場合)から。
「プレイヤー」に賭ければ勝率49.315%で払い戻しは2倍。
「バンカー」に賭ければ勝率50.685%で払い戻しは1.95倍。
どちらにしろ期待値は98%ちょいになり(期待値はほんのちょっとだけ「プレイヤー」に賭けたほうが高くなるけれども)
「長い目でみれば絶対に負ける」ことになります。
(参考文献)↓
バカラには、勝つ確率を高める方法が存在しない
期待値が98%オーバーというのは、
ギャンブルのなかでは非常に良心的といえます。
井川氏も本書の中でそれには言及しており、
競馬は馬券のうち25%を胴元が抜き、パチンコの控除率は10%~20%に達する。世界的に見て、これはバクチではなく「搾取」と言っていい。
として、パチンコや競馬(と宝くじ)を「カジノよりはるかに悪どい」と言っています。
しかしここには大きな勘違いがありますね。
それは、宝くじはともかく競馬やパチンコには
「勝つ確率(期待値)を高める方法がある」
ということ。
競馬の場合は(とてつもなく難しいけれども)他人が知らない情報を握って、他人がノーマークなおかげで馬の能力の高さに見合わないくらいオッズが高くなっている馬券を狙って買うことができれば期待値を上げられるわけですよね。
パチンコ・パチスロの場合は言わずもがな。このブログの読者の皆様であれば説明不要だと思うのでここでは省略しますが、勝つ確率を高める方法はいくらでもある。
しかし、バカラの場合はそれがない。
イカサマをやるか超能力的なものをもっているかすれば話は別だけれども、
ふつうはそんなことはできないわけで、ただひたすら運に身を任せるしかない。
出玉率98%ちょいの、目押し不要のノーマルタイプのパチスロを延々と打つようなものです。
98%って、ゴーゴージャグラーの設定2くらいですよ。
ゴージャグの設定2なんてのは我々がいつも打たされている「クソも出ないジャグラー」ですよ。
そう考えれば「絶対に勝てない」というのが実感できるでしょう。
井川氏はそれに千万単位のカネをかけ続けていたのです。
ジャグラーの話はともかく、バカラにはぱちんこのように勝つ確率を高められる方法がない。
興味深いのは、井川氏もそのことはわかっていたということ。
「勝ち負けにゲーム性が入り込む余地はなく、定石もへったくれもない」
「バカラでいくら頭脳プレイを展開しようとしても、頭を使う余地はどこにもない。勝つか負けるかは運次第だ」
それがわかっていながら、
「運とツキさえ回ってくれば、500万円を5億円に増やすことだってできる」
などと根拠のない妄想、期待だけで100億以上も負けてしまった。
いや、「運だけのゲーム」とわかっていたからこそ、ここまでハマってしまったのでしょう。
これがたとえば麻雀で、相手がプロ雀士・・とかであれば、賢い人なら「絶対に勝てない」と思って勝負しないでしょう。
しかしバカラはすべて運だけ。運を引き寄せれば勝てる・・と考えてしまうわけだ。
「運とツキさえ回ってくれば」・・・
こういう甘~い考え方をもっている人はパチンカー・スロッターにも非常に多いですね。
プロ雀士に勝つことも、運を自力で引き寄せることもどちらも不可能なことだと知るべきなのです。
「揺らぎの法則」?
サイコロの出目が予測不能なのと同じように、事実上の丁半バクチであるバカラにおいても、トランプの数字の出方も予測できない。ゲームを繰り返すうちに、行きつ戻りつしながら勝ちの方向へ揺らいでいくこともある。逆に、行きつ戻りつしながら最終的に負けの方向へ揺らいでいくこともある
これはぱちんこも同じですね。井川氏はこれを「揺らぎの法則」と呼び、
バカラを支配するのは「揺らぎの法則」だという説は、私も皮膚感覚から正しいと感じている
として、
「揺らぎの流れ」が変わりさえすれば、必ず勝負の風向きはこちらの思うとおりに動いてくれる
神のみぞ知る「揺らぎの法則」を、なんとか自分のものとして支配したい
と言っている。
なんという甘い考え方。
ハイローラーが運頼みのバカラを好む・・というのは、
彼のように生まれながらに裕福な大金持ちは
なんでも自分の思うようにことが運ぶのが当たり前、と考えているから、
なんじゃないでしょうか。
人生そんなに自分に都合よく行くもんじゃないよ、
ということを骨の髄まで理解している人なら、
「勝つ可能性を高める方法もないのに、そんなもんに何千万円も賭けられるかよ!バカなの?」
と考えるはずです。
「流れ」「揺らぎ」が大事、というのは
パチンカーにも多い考え方ですね。
私の顔見知りの若者が、めっちゃめちゃ回るパチンコ台をつかんだのに
ちょっとハマったらやめちゃったので
「なんでやめるの?もったいない」と言ったら、
「今日は『流れ』が悪い。そういうのって大事じゃないすか?」
と真顔で言ったのでビックリしたことがあります。
彼は常日頃「ディスクアップで目押し完璧なんで長い目でみれば設定1でも勝てるっス」とぬかしてるのに。
どこが「長い目」でみてるんだよ、という話なんですが、こういう人はけっこう多い。だから勝てないのに。
たしかに、確率に支配されるギャンブルでは「揺らぎ」「流れ」というものは存在します。
しかし、それは現在から過去を振り返ってみたときに
「このように揺らいだ」「こういう流れになった」と言えるというだけの話であり、
未来の「揺らぎ」「流れ」を読むことはできない。
そんなことは東大卒の井川氏であればわかることのはず。
なにしろ会社の話の部分では
「ビジネスとは数字の世界だ。概念論や抽象論、ましてや精神論や根性論など必要ない」
と言っているくらいですからね。
ここで「ギャンブルも数字の世界」ということに思い至らなかったのが不幸だった。
つまりはギャンブルを、運だけで勝てる簡単なものだと舐めていたんでしょうね。
未来の流れを読むなんて不可能。そんな当たり前のことすらわからなくなっちゃうのが「依存症」の恐ろしいところ。
思うに、このように「運」「流れ」「揺らぎ」を支配できる、と考えてしまうところが、
ギャンブルで負ける人の共通項ではないかと。
「コントロール幻想」
運や「流れ」、「揺らぎ」などの偶然を
自分でなんとかできる気になっちゃうのを、
心理学では「コントロール幻想」と言うらしいですね。
数字選択式の宝くじが人気なのも、その心理が影響してるんでしょうね。
しかし、少なくともギャンブルにおいては、
この心理から抜け出さなくてはならない、と思います。
パチンコ・パチスロでいえば、
設定がどうなのかもまったくわからないのにテキトーな台に座ってお金をじゃぶじゃぶ突っ込む人、
全然回らないパチンコでも「オスイチで引けばいいんだ、連チャンすれば勝てるんだ」と思って打っちゃう人、
負けても負けても「今日こそは連チャンする気がする」と期待しちゃう人、
谷〇ひとしセンセイのように「当たりたがっている台を打てば勝てる」などと思ってる人・・・
もちろん遊びで打っていて収支はどうでもいいのならそれでいいんですが、
そういう打ち方をしていて「勝てない」と嘆いている人は
「コントロール幻想」に振り回されている可能性が高いんじゃないか、と。
遊びではなく勝ちたくて打っているのなら、
「自分は世界一ヒキが弱い人間だ」
「どうせ引けない」「どうせ出ない」
と思わなければダメです。
回らない台や低設定台で間違って出る、などということはないと考える(間違って出たとしても、それはまさに「間違った」だけであり、そんなことは何度も続かない)。
そのように考えていれば、甘釘台や高設定確定演出が出た台や天井に近い台のような、勝てる見込みの
みえてる台しか打たなくなり、結果負けなくなる。
「運」「流れ」「揺らぎ」を読むことで勝とう、と考えることが、負ける最大の原因なのです。
そんなことは誰にもできはしない。
やるべきことは、甘釘台や高設定台をつかみ、ムダを極限まで減らして打って
勝つ確率を上げることだけ。
井川氏も、バカラで運や「流れ」や「揺らぎ」を読むことは不可能だし、
結局数学的な期待値はマイナスなんだからどう頑張っても絶対に負ける・・・
ということに気がつきさえすれば、
ここまで大負けすることはなかったはずですね。
しかし、依存症になってしまうとそんな冷静さは失われてしまう。
ということで、
今回取り上げた井川氏の著書「溶ける」は
内容的には不満が多かったけれども、
依存症の恐ろしさは少しは読み取れました。
それから、
「運」「流れ」「揺らぎ」を読める、支配できる・・
という幻想を意識して捨てるようにすることが、
ギャンブルで勝とうとする者にとっては非常に重要なことだ・・
ということも再認識した次第。
ギャンブルものとしては面白い本ではなかったけれど、
運に頼るから負けるんだ・・ということを再確認できるという意味では
役に立つ本かもしれません。ものすごくヒマなら読んでみるのもいいのではないでしょうか。