扶桑社の「SPA!」12月27日号に、
「年末年始は勝負時!ギャンブルで100万円稼げ」という見出しがあったので、
どんな記事か見てみようと思って買いました。
まあ、ギャンブルの記事はやっぱり勝つためには役に立たない内容だったんですが、
他の記事で、白鵬と市川海老蔵が対談していて、
白鵬が本音を吐いていてちょっと興味深かったので記事にしてみます。
いち大相撲ファンとして感じたことを。
「品格」とはなんぞや
海老蔵「・・すごく品格を求められますよね。素行が良くないとダメだとか、遊んじゃダメとか、日本はそういうものに美徳を感じる生き物なんです。・・・でも、やっぱり横綱は勝てばいいんですよ。僕の場合は芝居が良ければいいんです」
白鵬「いくら優しくて品格のある横綱であっても、結果を残さなければ引退です。そのことを考えると、「勝つことが品格なんじゃないか」と思うんです」
(「SPA!12月27日号より引用)
歌舞伎役者は芝居が良ければいい、というのは正しい。
役者は人生経験の豊富さが必要でしょうから、遊ぶのも「芸の肥し」でしょう。
それはわかるが、「横綱は勝てばいい」のか?
「勝つことが品格」なのか?
もともと横綱は「名誉職」で「地位」ではなく、
横綱を締めて土俵入りという儀式をすることを許された者、だったという歴史とか、
かつて双羽黒がおこした事件などもあって
「やっぱ、強いというだけで横綱にしちゃあダメじゃないの?」ということになった経緯とか、
そういったことを白鵬は知らないはずはない。
だいたい、彼もこのインタビューのなかで言っているが、
「江戸時代まで遡っても200年以上の歴史の中で(横綱は)71人しかいない」
のは、つまり歴史を振りかえっても「そのときに一番強ければ横綱」というわけではない、
という証拠なのではないか。
小錦はめちゃめちゃ強かったが、彼を横綱に!という声はあまり盛り上がらなかった。
当時は、外国人だから、という差別意識もあっただろうことは否定しませんが、
私は、「彼が横綱土俵入りしてもたぶん美しくないからなってほしくない」
と思っていました。容姿の問題ではなく、あれしか足が上がんないんじゃあ、
美しい横綱土俵入りをすることはできないよね、と。
当時は千代の富士の超カッコいい土俵入りをいつもみていましたからなおさらでした。
土俵入りはそもそも儀式であり、同時に見世物でもあるわけで、
そういったことは重要だと思っていたのです。
当時ガキだった私でも、「強いやつが横綱」とは思っていなかったわけです。
横綱は強いと同時に(ビジュアルだけでなく、精神的な意味でも)カッコよくなければならない。
私の個人的な意見としては、
「カッコいい」=「品格がある」ということなのです。
で、白鵬は「品格品格」言われて、ちょっと勘違いしてるんじゃないかと思うんですけど、
相撲ファンは横綱に、人間としてすばらしい、ということは求めていない。
「力士として立派な人物」ならそれでいいんですよ。
私は、力士が「土俵外で」なにをしようがいっこうにかまわないと思っています。
朝青龍がサッカーをしたのも、巡業を休んだのが問題だったんだし、
薬物や賭博も、違法だから問題にされたというだけで、
極端な話、違法でなく、相撲協会のルールに反しないなら、
薬物をやろうがおんな遊びをしようが借金しようが酒におぼれようが、
なんでもやってかまわないと思います。
尾崎豊やASKAが覚せい剤をやってたからといって、
彼らの音楽の良さは否定されるものではないですよね。
海老蔵が言うように、役者は芝居がよければいいんだし、
音楽家はすばらしい曲を書ければそれでいい。
そういった意味では、力士がプライベートでどんな素行だろうがどうでもよい。
しかし、白鵬が品格を問題視されてるのは、
土俵上でのこと(ダメ押し、かちあげ、懸賞金の取り方、審判への文句)
なわけで、別に白鵬自身の人間性を問題にしているのではないのです。
そこを彼はわかってない気がします。
ムンフバト・ダバジャルガルとしての彼がどんな人間でもよい。
横綱白鵬としての彼が力士として立派ならそれでよいのです。
力士の手本、神様の依り代たる横綱の土俵上での行動が美しくない、
「カッコよくない」というのが問題なのです。
批判めいたことを対談なんかでベラベラしゃべるのはみっともない
で、帰化や一代年寄、国籍の話題をふられて、
白鵬「そんなこと言うんだったら、最初から日本人だけでやってればよかったんですよ。でも、小錦さんや曙さん、それにモンゴルの方々を受け入れたわけでしょう。それは相撲協会が決断したことなんだから、その方たちがこれだけの成績を残したのであれば、向こうが決断しないとずるいですよ」
いやいや、ずるいということはないはず。
日本国籍をもっていないと親方になれない、というのは前から決まっていたこと。
それがずるいと思うんなら、なぜ、旭天鵬がモンゴル国民から非難されながらも親方になるために
帰化したときには文句を言わなかったのか。結局、自分の利益にかかわらなければ
こんなこと言い出さなかったわけでしょう。
一代年寄なら国籍の規定はない、という声もあるようですが、
そもそも自分で「これだけの成績を上げてるんだから一代年寄くれ」
とか言い出すこと自体がみっともない。「横綱らしくない」。カッコよくない。
オリンピックの金メダリストが一斉に
「高橋尚子ももらったんだから、我々にも国民栄誉賞をもらう権利がある」
と言い出すようなものじゃないか。
しかも、対談なんかで、自分が所属している、給料をもらっている組織である
相撲協会への批判を口にする。
こんなことは協会の中の話であって、
面と向かって八角さんに言えばいいのです。言ってるのかな?
どっちにしろ、そんなことはファンからみえないところで文句を言うべきです。みっともないから。
自民党の国会議員がテレビ番組で自民党の批判をするとか、
会社員が公の場で自分の会社の悪口を言うようなものです。
相撲以外の社会経験がないまま出世してチヤホヤされてしまったから、
そういうことはしてはいけないということが考えられない、わからない。
自分が、相撲以外の社会では未熟者であるという自覚があれば、だれかに教えを請うものですが、
そんな謙虚さもないようです。
そうなってしまった横綱を導くのは、師匠や横綱審議委員会であるはずですが・・・。
白鵬が歪んだのは横審のせい
白鵬は、「優しくて品格があっても結果を残せなければ引退・・・そのことを考えると、勝つことが品格なんじゃないか」
と、この対談で言っています。
白鵬が、「勝つことが品格」とか言い出しちゃったのは、やっぱり
横綱審議委員会の責任だな、と思います。
横審が勝ち星のことしか問題にしないから、「勝てばいいんだろ、勝てば」となってしまう。
勝ち星が多ければ「強い。立派」と言い、負けがこめば「ふがいない」と言う。
ただそれだけ。横審がそんなだから、かつては力士として優等生、
双葉山のような角聖を目指していた白鵬が
「勝てばいい」と考えるようになってしまったのでは。
さらに、「結果を残せなければ引退」というところも問題だと思います。
勝てなきゃあ引退→勝てばいいんだろ勝てば、という考えに至ってしまうのも無理はない。
勝てなければ引退するしかない、となれば、安全に勝とうと八百長しようとするのも当たり前。
白鵬は対談で、横綱になると横綱免許状をもらうと言っています。
横綱は地位ではなく免許、名誉職、つまり昔の状態にもどせばよい。
地位としての最高位は大関。
横綱が横綱として不適格、となったら、免許状を取り上げればよいのです。
そうすれば、たまたま怪我で勝てなくなったから引退、という心配をする必要はない。
大関からの陥落をしないように頑張ればよい。
だいたい、若くして横綱になったとして、
たまたま一時期、調子が悪くて勝てなくなった、というだけでも引退しなきゃいけない、
とかいうのは、どう考えてもおかしい。
若くすばらしい才能をつぶすことになるかもしれませんよね。
そうなったら困るから、八百長しようとも考えてしまう。
だから、「勝てなかったら引退」というシステムをなくせば、
土俵内容の充実につながるんじゃないかと思います。
結局、謙虚さがないことが問題では
でも、「勝つことが品格」でないことは、一目瞭然、彼もわかっていると思うんですけどね。
だって、勝っても(変化とかをして)内容が悪くてブーイングをくらったこともあるんだし、
格下の力士がなんとか勝とうとしてトリッキーなことをしようものなら、
「誰に向かってそんなことしてんだ、堂々と正面から来い」みたいなこと言うんですからね。
ちなみに、日本人横綱誕生を阻止されるから白鵬にヤジがとぶ、みたいなことが
「SPA!」の記事には書かれていましたが、ヤジやブーイングを白鵬がくらう理由は
そこではないことはまともな相撲ファンならだれでもわかるはず。
ブーイングについて「横綱はなにも悪くない」と海老蔵が言っていますが、
ここで「俺はなにも悪くない」と思ってしまうのであれば、もう救いようがない。
ブーイングをくらって、「なにがいけなかったんだろう」と謙虚に考えることをせず、
「お前らもっと相撲を勉強しろ」と考えてしまうところが、
つまり「品格がない」ということなんじゃないか。
ここ数年、いろんなことを言われているにもかかわらず、
改善しようとしているようにみえないのは、
やはり本人に謙虚さがないからなんじゃないかと思うんですよね。
稀勢の里や豪栄道の横綱昇進をファンが待望するのは、
ベラベラ余計なことを言うのはみっともないという謙虚さ、
その美学、姿勢に共感するからであって、
「日本人だから」ではない、と思うんですけど。
豪栄道や稀勢の里が「怪我が痛くて勝てなかったんすよ。万全ならもうちょっと勝てましたよ」
「審判がちゃんと見ててくれないから」とか言い出したら、
(事実そうだとしても)日本人ファンもみんな「見損なった」と言うでしょう。
私だって、問題児になる前の白鵬を応援していました。
歴史に残る大横綱になる、と確信していました。
強い上に真摯で礼儀正しい土俵態度はカッコよかった。
しかし、カッコいい最強横綱白鵬は去り、
いまは愚痴をベラベラ言う、記録だけが凄いただの横綱がいるだけです。
すごく寂しいことですね。
追伸:今回取り上げた対談記事の完全版は、
↓の書籍に収録されているそうです。
気が向いたらまた相撲の話を書きたいと思います。