小林製薬の「紅麹」を含む機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人が腎臓の病気などを発症したという問題が発覚。それにともない、機能性表示食品が話題にのぼることが多くなっていますね。
似たようなものに「特定保健用食品」(トクホ)ってのもありますね。どちらも健康を増進する効果があるとされて売り出されているものという意味では同じですが、トクホのほうはいちおう国が審査して消費者庁から許可されて売られているのに対し、「機能性表示食品」のほうは「事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品」であり、事業者が消費者庁に「届け出」をするだけらしい。
まあ私に言わせれば審査をする国や許可をだす消費者庁自体がそもそも信用できないから、その信頼度はどちらも大して変わらない、とも思えるんですけど、まがりなりにも企業の外にいる人間が効果や安全性についてチェックを入れる機会があるトクホと、企業が「これが科学的根拠です!我々が責任もちますから!」と言えばそれで通っちゃう(?)機能性表示食品とでは、今回のような問題が噴出する確率は違ってくるんでしょう。
科学的根拠を示して届け出れば販売できるのなら、機能性表示食品は企業のやりたい放題になりそう。いや実際にやりたい放題になっている気がする。だからこんな事件が起こったわけでしょ。
私はもちろんこの分野の専門家ではないし知識もありませんが、私の亡父がこういう健康食品や薬なんかが大好き人間だったこともあり(逆に私は大嫌い、ていうか信用できない)、こういう話には興味があります。今回はこれについて思うことを書いておきたい。あくまでも思ってることだけです。科学的な根拠がある話はありません。
「『認知機能』を維持する」機能性表示食品がたくさん売られている
興味をそそられる(飲みたくなるという意味ではない)のは、「認知機能」の維持や改善に寄与するという機能性表示食品がたくさん出ていること。
件の小林製薬でもこんなのを出していますね。
Amazon.co.jp 小林製薬の機能性表示食品 健脳ヘルプEX 約30日分 90粒
こういうのがあるという参考のために貼りましたが後述するように私はおススメしません。こんなもんに月に4,000円も出すくらいならそのカネで孫と楽しく遊んだりしたほうがよほど脳にいいはずです。
この手の商品の多くはもっと機能を限定して「認知機能の一部である『記憶力』の維持」とかいう言い方をしていて、これみたいに「認知機能を維持」などと大きくザックリいうものは少ないようですが、どっちにしろ「認知症になったりするのが心配な人はどうぞ!」というふうに読み取れる。
そしてその多くは、一般的に認知機能の維持や脳の健康によいと言われているEPAだのDHAだの亜鉛だのが含まれているとか、脳の血流を改善する成分が入っているとかいうアピールをしている。そう言われれば「ほ~ん、なんか効きそうだな」と思って買う人もいるでしょう。じっさいそれなりに売れているようです。
ともかく、効くかどうかは私も飲んだことがないから知りませんが、「あれ?物忘れが多くなったかな?」とか感じたときに、安易にこういうサプリ等に頼ろうとすること自体が認知症への近道を歩むことにつながるんじゃないか、と私は思っています。
その物忘れがトシ相応なのかそれとも病気なのか
記憶力はトシとれば誰でも衰えてくるんですよ。自分の都合の悪いことだけ忘れることができる自民党の議員みたいなのは詐欺師特有の能力なのか病的な脳疾患なのかわかりませんし議員をやめれば治るんでしょうが、その物忘れが「トシ相応」なのか「認知症の前触れ」なのか、サプリを買おうとかする前によく考えなくてはならない。トシ相応ならば病気ではないのだからわざわざ高いカネ出してなんとかしようとする必要はない。いやそれでも抗いたい気持ちはわかるけれども、薬にしろサプリメントにしろ、なにか効用を得ようとすればそれと引き換えになんらかの副作用が起こるというリスクはゼロにはできない。
血圧が高いと血管にダメージがあるから下げろ下げろといってすぐに薬を飲まそうとする医療関係者がいっぱいいる(私も言われたことがある)けれど、トシとれば血管が硬く狭くなるのは避けられず、血管が硬く狭くなれば血圧を上げないと脳にも血が行き渡らないから血圧は上がる。これ自体は正常な現象なのではないの? 若い人が病的に高血圧なのなら原因を追究して治療すべきでしょうが、血圧が高くなるのが当たり前な(つまり病気ではない)高齢者の血圧を正常な若い人と同じような「130未満」に無理やり抑えようとするのはどう考えても不自然なことだし、血圧を下げて脳の血管がブチ切れる可能性を減らせたとしても、脳の血管が詰まる脳梗塞のリスクは上がってしまう。脳に血があんまりいかないからめまいやふらつきが起こりやすくなり、転倒して寝たきりになる可能性も高まる。血圧が多少高めでもはつらつと元気に過ごしたすえに脳出血で死ぬのと、血圧を無理やり下げてもうろうと元気のない生活をしてあげくに転倒して寝たきりになって徐々に衰えて死ぬ、はたしてどっちが幸せか。
もちろん私くらいの中年が年齢に不相応な異常な高血圧になっているとしたらなんとかしたほうがいいでしょう。なので高血圧を問題視すること自体は否定しませんから誤解してほしくないですが、とどのつまり年齢をかさねたことによって出てくるカラダの不具合を薬でなんとかしようというのは基本的にはあまり良くないことだと思うのです。病気じゃあないんだから。ちょっと不具合があるとすぐに薬に頼って、一時期10種類以上も薬をのんでた父が結局病気のデパートのようになって苦しみぬいて亡くなったのを思い出すとそう思えるのです。
高血圧にしろ物忘れにしろ、それが年齢相応のものなのであれば、わざわざ副作用のリスクをとってまで薬でなんとかしようとするのはやらないにこしたことはないんじゃないか。少なくとも私はそうするつもり。私が数年前にやった白内障なんかもトシをとればみんななるものだから、そう言うなら放っておけよ、と言われるかもしれませんが、あれの治療の場合は非常にリスクが小さいわりに大きなベネフィットがほぼ確実に得られるものですからね、ちょっと別の話になる。
ちょっと話が逸れましたが、「物忘れ」が気になったら、まずはそれがトシ相応の健全な物忘れなのかそうでないのかを判断し、そのうえで適切な対応をすることが重要になりますね。
先日久しぶりに甥と話をしたときに、「おとうさん(つまり私の兄)が車を駐車場のどこに置いたかを忘れる。大丈夫かな」ということを言っていました。それは私でもたまにあることで、「いやあそれは誰でもあることだよ。トシだからしょうがねえんだよ」と答えたのですが、この場合は(たまになのであれば)おそらく年齢相応のもので心配する必要はないと思われる。
しかしこれがもし「車で来たこと自体を忘れて電車で帰ってきた」とか、車で来たことを忘れてその自覚もない、とかならちょっと心配したほうがいいかも、ということになりますね。その場合は脳神経外科に行って検査をしてもらったほうがいい。
慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症などの影響による認知障害なら適切な治療を受ければ治りますから、病的な物忘れだと思ったなら早めに診てもらったほうがいい。ここが認知症は早期対応が大事だとされる理由のひとつですね。
つまり病気でないなら騒ぐ必要はないし、病気ならはやく検査したほうがいいということ。しかしここでなんでもすぐに市販の薬やサプリに頼ろうとする人の場合、そこのところをよく考えず「なんか物忘れが増えたな。記憶力にいいっていうサプリメントが売ってるからこれ飲んで様子みるかあ・・・」で済ましてしまい、適切な治療を受けるタイミングを逃すかもしれない。その意味で市販の物忘れ改善薬や機能性表示食品は罪深い。どうせ効かないのに。
なにか飲むだけで記憶力が向上したりするわけがない、と疑ってみるべき
いや、ちょっとした風邪とかみたいに、市販薬なんかでもそれなりに効く症状なのであればいいと思いますよ、しかし「記憶力」を維持するというとんでもなく難しそうなことができるという機能性表示食品、はたしてほんとうに効くのだろうか。
成分によって脳になにかいい影響を与えて脳の働きが冴える、とかいうのはひょっとしてあるのかもしれないけれど、それが自覚できるほど効くってのは、たぶんないんじゃないのかな~。
以前に紹介した、記憶力などを向上させる効果が期待できるという第3種医薬品。件の小林製薬も「ワスノン」なる薬を出していました。それで物忘れが改善するんならバカ売れになってしかるべきだけどそんな話は聞かない。ロート製薬の「キオグッド」に至ってはすでに販売終了になっている。売れなかったってことでしょ。そもそもそれらの薬に入ってる「オンジ」が物忘れに効くってのもラットで実験してみただけで人間への効果は実証されてないっていう話だし。
かつて抗認知症薬の代名詞だった「アリセプト」を生み出したエーザイが満を持して売り出した、史上初の認知症の原因物質を標的にする抗体薬「レカネマブ」ですら、認知症の進行をたったの27%「遅らせる」(時間にして7.5か月だそう)というだけ。ひとりの患者から年に300万円以上も取らなきゃ儲けが出ないというくらいの巨額の開発費をつかった新薬の効果がたったそれだけですよ。私もレカネマブには期待していたからそれを知ってガッカリしたけれども、認知症を薬でなんとかしようというのは今のところはそれだけ難しいということでしょ。製薬会社はキオグッドやワスノンや「機能性表示食品」は認知症薬ではなく「物忘れ」を改善するだけ、と言うでしょうが、どちらにしても飲むだけで記憶力が改善するなんて、そんなうまい話があるわけない、と考えるのが妥当なのでは?
脳の血流を改善するなら運動するのがいちばんいい気がする
記憶力の改善をうたう機能性表示食品の多くは「脳の血流を改善する」といっている。しかし通販サイトのレビューなんかをみていると、「効果がはっきりわかる!」と言う人はだいぶ少ないようですね。そりゃあそうでしょう。脳の血流は自覚できない。
しかし、そんなものを飲んだりしなくても「頭が冴える」とか「ハッキリしていて回転がいい」とかいうことを確実に自覚することはあります。それは「運動したとき」。
運動と言っても私の場合は夜に1時間弱ほど外を早歩きしてくるだけ、それも週に2回くらい時間があるときだけですが、ちょっと息が上がってうっすらと汗かくくらいの早歩きをして帰ってくると、ものすごくスッキリした気分になって、脳が活性化しているのを実感する。これは体験がある方も多いはずです。
わざわざ外に歩きになど行かなくても、たとえば掃除したりとか、そんなちょっとした動きであっても、座っているよりは確実に脳がハッキリするのがわかる。これはやっぱり動いたことによって血流が良くなって酸素が脳に行き渡るからでしょう。そう考えるとひたすら座りっぱなしのぱちんこは確実に脳に悪い趣味ということになりますね。
機能性表示食品をとることによって運動したときと同じような確実な効果を実感できるのであれば、通販サイトのレビューにも「すごく頭がハッキリする!」とかいう感想がもっとたくさんあってもよさそうなもの。でも、ない。
逆に「飲んだら頭がシャキーン!」なんていうものがほんとうにあったらそれこそ危険なモノとも思えるわけですけど、どっちにしろ脳の血流を良くして脳の働きを良くしたいと思ったら、どう考えても「運動」がいちばん効果がある、というか効果を自覚できるのでは。
有酸素運動をするのが難しいという事情がある人ももちろんいるでしょうが、そういう方はもはや健康食品ではなく医療に頼るべき段階であることが多いでしょう。機能性表示食品で物忘れをなんとかしよう!などという人は、そんなものに無駄なカネ使うのをやめて、運動することにカネと時間を使ってみたほうがいいのでは。
そういうふうに、なにかカラダに不都合が起こったとき薬や健康食品にすぐ頼ろうとするのではなくまずは生活習慣を見直したり、できることはないのかな、と考えてみるのは大事なことじゃないか。
もちろん異常を感じたら早めに診てもらうのは大事なこと。なんでもかんでも自己解決しようとするのも問題ですから、こりゃあ病気かも、と思ったらすぐ医者に行かなくてはなりませんが、いちばんいけないのはなにも考えずにたいして効きもしない健康食品なんかに頼ってそれで済まそうとすることじゃないでしょうか。そんなもんで月に何千円も使うなんてじつにもったいない。人生が残り少なくなったら、カネは楽しむために使ったほうがいいでしょう。